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日本の磯にいる毒のあるカニ(蟹)を紹介!カニの毒化についても解説!

磯を歩く少年

潮干狩りや釣りに行ったときの磯場では、ちょっと小ぶりな可愛いカニ(蟹)を
よく見かけますよね。

実は、そんなカニの中には毒のあるカニがいるので、触るくらいは何も問題は
ないんですが、食用にするのは非常に危険です。

カニの毒は熱に強いという特徴がありますから、たとえ加熱調理したとしても
絶対に食べてはいけません。

今回は、日本近海にいる毒のあるカニを紹介しますから、目立った特徴だけでも
覚えておいて、不測の被害を受けないようにしてくださいね。

また、毒はないというカニでも毒化することがあるんですが、その原因と対策
についてもお伝えしていきます。

 

日本の磯にいる毒のあるカニはこの3種類!

現在でもカニの毒についての研究は続けられているんですが、今のところ日本に
いる毒ガニは3種類であるというのが定説になっています。

その毒のあるカニとはこの3種類なんです。

①ウモレオウギガニ
②スベスベマンジュウガニ
③ツブヒラオウギガ二

では、この3種類のカニの特徴をできるだけ印象に残りやすいように紹介します
から、大きさと色だけでも覚えておいてくださいね。

もし、潮干狩りや釣りに行った磯で思い当たるカニを見つけたら、触るだけなら
安全ですが、絶対に食べないようにしましょう。。

ちなみに、この3種の毒ガニは全てオウギガニ科に属するカニです。

 

①ウモレオウギガニ

ウモレオウギガニの写真

ウモレオウギガニ(出典:農林水産省)

3種類のなかで最も大型で毒性も強いカニです。

今までの中毒の記録を追跡して、中毒経験者や近親者に確認した結果によると、
中毒のほとんどがこのウモレオウギガニだったそうです。

このカニによる食中毒がとび抜けて多いのは、獲物として形が大きく、一見して
食用の対象とされやすいことが理由の一つのようなんですね。

また、最近では和歌山県の伊勢海老漁の網にかかったことが2016年11月の産経
新聞で報告されていますよ。

 

生息地域

ウモレオウギガニの生息地域

ウモレオウギガニの生息地は主に奄美大島や沖縄県・南西諸島ですが、小笠原、
八丈島、伊豆大島でも確認されています。

 

見た目の特徴

甲長と甲幅のイラスト

甲長と甲幅

成長すると甲長は約5㎝、甲幅は約8㎝になり、磯でよく見るカニとしては大き目
です。

からだは甲羅が雲紋状に凸凹していることが印象的な特徴です。

甲羅の色彩は紫褐色が多いですが、まれに紅色、褐色、オレンジ色などのことが
あるようです。

また、ハサミの先端が黒いのが毒ガニ3種類に共通した特徴です。

 

毒の種類

サトキシキシンを主体とした「麻痺性貝毒」です。

この「麻痺性貝毒」は水溶性で熱に強い天然毒で、加熱調理しても毒性は弱く
なりません。

どんな調理にしても食べないようにしてくださいね。

 

中毒症状

食後10~30分でくちびる、舌、顔面などがしびれ、手足の発熱感がはじまり、
重症の場合は運動失調や呼吸困難を起こします。

毒素は食後数時間以上経過すると体外に排泄されるそうですが、過去に多数の
死亡例があります。

 

治療方法

治療薬は開発されていないため、対症療法として、胃洗浄、点滴、人工呼吸を
行うしかないようです。

 

②スベスベマンジュウガニ

スベスベマンジュウガニの写真

スベスベマンジュウガニ(出典:農林水産省)

スベスベマンジュウガニ

小型であるためか、あえて食用にしようとする人がいないらしく、現在まで
日本での食中毒事故の報告はありません。

 

生息地域

スベスベマンジュウガニの生息地域

房総半島より南の太平洋沿岸から沖縄・南西諸島にかけて生息しています。

 

見た目の特徴

成長したもので、甲長約3.5㎝、甲幅約5㎝になり、名前の通り甲羅の表面は平ら
で、すべすべしていています。

体色は濃い紫色で、褐色または淡緑色の明るい雲紋状の模様が特徴的ですよ。

爪の先端が黒いのは他の2種の毒ガニと同じです。

 

毒の種類

前記のウモレオウギガニと同じ「麻痺性貝毒」を持っていますが、同時に
「記憶喪失性貝毒」も持ち合わせています。

この「記憶喪失性貝毒」はフグ毒を主成分とした毒のようです。

しかし、採集地域やカニによっては、片方の毒しか持っていないことが
あります。

 

中毒症状

「麻痺性貝毒」による中毒症状は前記のウモレオウギガニと同じです。

「記憶喪失性貝毒」による中毒症状は食後数時間以内に吐気、嘔吐、腹痛、
頭痛、下痢が起こり、重症の場合には記憶喪失、混乱、平衡感覚の喪失、
けいれんがみられ、昏睡により死亡の事例があります。

 

治療方法

治療方法は確立していないので、前記のウモレオウギガニと同じ対症療法しか
方法はありません。

 

③ツブヒラオウギガニ

【写真】の準備ができませんでしたので、『ツブヒラオウギガニ』でネット検索をして
見てくださいね。

今までに、記録のある食中毒事故は3件あって、3人が亡くなっています。

最も新しい事故の記録は1950年で、沖縄県で起きていますが、それ以降の食中毒
事故の報告はありません。

 

生息地域

ツブヒラオウギガニの生息地域

与論島、奄美大島、石垣島、竹富島で確認されています。

 

見た目の特徴

成長しても甲長約3㎝、甲幅約4㎝の小型のカニです。

甲羅は小さなつぶつぶに覆われていることと、甲羅のふちにふち取りがあること
が特徴的です。

また、脚は名前の通り平たいのが特徴です。

爪の先端が黒いのは他の2種の毒ガニと同じです。

 

毒の種類

前記のウモレオウギガニと同じ「麻痺性貝毒」です。

 

治療方法

治療薬は開発されていないので、ウモレオウギガニと同じように胃洗浄、点滴、
人工呼吸による対症療法しか方法はありません。

 

毒ガニも自分では毒を作れない!?

毒薬のイラスト

カニの毒の研究者たちはいろいろな地域で多くの毒ガニを採集し、カニの毒性に
について調査・研究をしています。

今までに公表されている調査結果を見てみると、カニは毒ヘビや毒グモのように
自分自身で毒を作りだしているわけではないようなんですね。

その理由は、同じ地域で、同じ種類の毒ガニであっても、毒性に著しい個体差が
あるからです。

その個体差には2つがあげられます。

①毒の種類が異なる場合があること。

②毒の強弱に差がある(毒のないカニもいる)こと。

それでは一体どうやって毒のあるカニが現れるのかは、今のところはっきりとは
解明されていないんです。

ただ、毒のあるプランクトンを捕食して毒化した貝類をカニが捕食することで、
体内にその毒を蓄積したのではないか、と考えられているんですね。

 

カニの毒なのに「貝毒」というのはなぜ?

ムラサキガイの写真

『貝毒のリスク管理に関するQ&A』(農林水産省)の中から、貝毒の説明をしている
個所を引用させていただきました。

貝毒とは何ですか?

貝毒とは、毒をもった植物プランクトンを主に二枚貝(ホタテガイやカキなど)が捕食することによって、体内に毒を蓄積させる現象です。

この回答をもとに、カニが毒化することをもう少し詳しくお伝えしますね。

毒素を産生する能力のある渦鞭毛藻(うずべんもうそう)といわれる藻類が発生
する水域で、この渦鞭毛藻を餌にする動物はすべて毒化する危険性があります。

渦鞭毛藻は植物プランクトンですから、プランクトンを餌にしているホタテガイ
やカキなどの二枚貝が捕食することで貝の体内に毒素が蓄積されます。

すると、カニが貝類を捕食することによってカニも毒化することになるんですね。

つまり、渦鞭毛藻が産生した毒が貝を通して食物連鎖によってカニを毒化する
ので「貝毒」といわれているんです。

渦鞭毛藻(うずべんもうそう)とは

海域・淡水域に広く分布する植物プランクトンです。

この渦鞭毛藻の中には毒を産生するものがあって、これを捕食した貝類に蓄積されて貝毒の原因になります。

出典:渦鞭毛藻 Wikipedia

なお、貝毒には「麻痺性貝毒」、「記憶喪失性貝毒」、「下痢性貝毒」などの
種類がありますよ。

 

カニに毒があることが分かったのは、たった50年前!

採集したカニ

日本では昔からカニには毒はないと考えられていました。

なので、カニを食べて食中毒を起こす原因は鮮度が落ちて痛んでいたためとか、
蟹アレルギーによるためだと片づけられていたんですね。

しかし、カニを食べて食中毒を起こしたという記録は意外に多くて、家族全員が
命を落としたという事例さえありました。

そこで、1968年、東京大学の研究チームが『シガテラ』の研究の一環として、
南西諸島において、カニ中毒の実態調査と原因の追究を行いました。

具体的には、「シガテラ毒魚が毒化するのは、毒ガニを食べるためである」と
いう南西諸島の言い伝えを実地調査したんですね。

『シガテラ』とは

シガテラとは、熱帯の海洋に生息するプランクトンが産生する毒素に汚染された魚介類を摂取することで発生する食中毒のことです。

出典:シガテラ Wikipedia

その結果、オウギガニ科に属する3種のカニが強力なまひ毒(麻痺性貝毒)を
持っていることが判明したんです。

つまり、毒ガニは生まれた時には毒を持っていないが、有毒プランクトンを
食べ、毒を持った貝を食べ、毒を得たというわけなんです。

なので、3種の毒ガニといわれている①ウモレオウギガニ、②スベスベマンジュウガニ
③ツブヒラオウギガニは毒を体内に蓄積しやすいカニだったのかもしれませんね。

まだ、カニの毒については完全に解明されているわけではないようなので、とりあえず
磯にいるカニを食用にすることはオススメしませんよ。

 

食用のトゲクリガニが毒化した原因と対策

トゲクリガニの写真

トゲクリガニ

トゲクリガニは東京湾より北に生息する毛ガニの近縁種で、大きいものでは
600gを越える食用のカニです。

このカニの毒性が認められたのは、肝膵臓部いわゆる「かにみそ」として珍重
される部位からですが、国内で食用とされるカニ類に高い毒性が確認されたのは
初めてのことなんです。

時期は1999年4月のことでした。

 

トゲクリガニが毒化した原因

福島県の小名浜港では2月から4月にかけて、しばしば貝毒の原因となる
プランクトンが出現して二枚貝類が毒化することが知られていました。

そこで、『水産研究・教育機構』の研究チームが潜水によって各種の魚介類
を採集して、その毒量を測ったところ、二枚貝ばかりではなく、トゲクリガ
ニからも高い毒量を検出したんですね。

さらに、2002年以降も調査を続けた結果、二枚貝のムラサキガイの毒量と
トゲクリガニの毒量の関連性がはっきりと認められました。

つまり、肉食性の高いトゲクリガニが毒化したのは、二枚貝を食べるという
食物連鎖によって毒素を体内に蓄積したことが原因だったんです。

 

トゲクリガニの毒化への対策

トゲクリガニの毒化が判明したことで、二枚貝類だけではなく、トゲクリガニ
についても注意する必要性がはっきりしました。

そこで、2004年4月厚生労働省はトゲクリガニだけではなく、二枚貝類を
捕食する生物についても安全基準を定め、基準を超える場合には食品衛生法
に違反するものとして扱うことを関係機関に通知しました。

なので、現在では魚介類の貝毒の心配をしなくてもよい監視・管理体制(農林水産省
消費・安全局)
が整備されていますから安心してくださいね。

ちなみに、国内での各生産海域における貝毒検査において、規制値の超過が確認
されて出荷が規制された件数は、令和元年では「麻痺性貝毒」で52件、「下痢性
貝毒」で26件でした。

このように監視・管理体制が有効に機能しているため、近年では、販売されて
いる二枚貝等(カニを含む)が原因となった食中毒事例は報告されていませんよ。

 

カニの毒と勘違いされやすい事例

ゆでカニの脚

現在、流通していて、わたしたちが食べているカニには毒はありませんが、
いかにも毒があるかのように勘違いされやすい事例があります。

その勘違いされやすい事例とはこの2つなんです。

①腸炎ビブリオによる食中毒

②蟹アレルギーによる症状

では、それぞれについて解説していきますね。

 

①腸炎ビブリオによる食中毒

食後4~96時間で、激しい下痢、腹痛、嘔吐などを起こしますから、毒ガニに
当たってしまったのか、と勘違いしてしまいますよね。

魚介類を食べて食中毒を起こす細菌やウイルスには、腸炎ビブリオのほかサル
モネラ菌、ノロウイルスなどがあります。

ただ、魚介類の中でもカニによる食中毒は腸炎ビブリオによることが多いんで
す。

その理由は腸炎ビブリオ菌は塩分を好み、塩分が1~8%で増殖が活発になるん
ですが、実は、カニ身の塩分は他の魚介類より高くて3%くらいあるためカニの
身で増殖しやすいんですね。

さらに、腸炎ビブリオの増殖スピードは速くて、ほかの細菌の2倍以上のスピー
ドで増殖することがあげられます。

しかし、腸炎ビブリオにも弱点があって、低温に弱く10℃以下では増殖が抑え
られますし、真水(水道水)に弱いこともあって、よく洗浄すれば予防すること
ができるようです。

ちなみに、最近の全国の腸炎ビブリオによる感染状況は下記の通りです。

・2017年:7件(97人)

・2018年:22件(222人)

・2019年:0件

・2020年:1件(3人)

資料:「令和2年食中毒発生状況」厚生労働省

このように感染状況が激減しているのは、きっと生産管理・監視体制や冷蔵技術
の向上および食中毒への意識が高くなってきたからなんでしょうね。

 

②蟹アレルギーによる症状

カニを食べて間もなく(2時間くらいの間に)おう吐、下痢、じん麻疹、湿疹
などの症状が現れたらアレルギーを疑ってください。

カニは同じ甲殻類の海老(えび)とともにアレルギー症状を起こしやすい食材
の一つなので、カニを含む食品には必ず表示することが義務付けられています。

つまり、食品衛生法による「特定原材料」に指定されている7品目の一つで、
特にアレルギー症状を起こしやすい食材なんです。

まれに、カニによるアレルギー症状が重症化してアナフィラキシーショックに
至ることがありますから、蟹アレルギーを疑われる方は食品の原材料の表示を
必ずチェックするようにしてくださいね。

 

アレルギー症状が現れたときの対処法

アレルギー症状が現れたときの対処法を紹介しますが、できるだけお医者さん
の診断を受けてくださいね。

おう吐、下痢、じん麻疹、湿疹などのときには経過観察あるいは抗ヒスタミン薬
投与ですむことが多いですが、咳や喘鳴(ぜんめい)などの呼吸器症状が現れた
ら緊急に医療機関を受診すべきですよ。

喘鳴(ぜんめい)とは

呼吸をするときにゼーゼーやヒューヒューという音が現れること。

気道が狭くなっている状態です。

 

ナフィラキシーショックとは

アレルギー反応が重症化した場合で、急速な血圧低下によってショック状態を呈したアレルギーのこと。緊急な治療をしなければ命にかかわります。

 

抗ヒスタミン薬

体内のヒスタミンの作用を抑制してアレルギー症状を改善する薬です。

酔い止めの成分として知られ、花粉症の薬や総合感冒薬にも含まれています。

出典:抗ヒスタミン薬(Wikipedia)

市販の抗ヒスタミン薬に『アレジオン』や『アレグラ』などがあるんですが、副作用の
こともあるので、お医者さんに処方してもらうことをオススメしますよ。

 

まとめ

日本の海にはこの3種類の毒のあるカニがいます。

・ウモレオウギガニ
・スベスベマンジュウガニ
・ツブヒラオウギガニ

その毒性は人の命を奪うほど強力で、熱にも強いので、たとえ加熱調理しても
危険ですから絶対に食べないでくださいね。

カニがそんな毒をもつ原因は、有毒プランクトンを食べて毒化した二枚貝を、また
カニが食べることで毒化するという食物連鎖によるものと考えられています。

なので、前記の3種類の毒ガニ以外のカニでも毒化することがあるので、磯にいる
ほかのカニでも食用にすることはオススメしませんよ。

ただ、本記事では毒をもつカニの生息地域や特徴を紹介しましたが、できれば
ハサミの先端が「黒い」ことだけでも覚えていてほしいです。

(毒が無いのにハサミが黒いカニには迷惑ですね、ゴメンナサイ。)

また、まれですが、食用のカニが毒化することも確認されたため、二枚貝を餌とする
すべての魚介類等の監視・管理体制が農林水産省・厚生労働省の主導のもとに
各都道府県で実施されています。

なので、最近では、監視・管理体制が有効に機能しているため、食用のカニの毒による
食中毒事故は起きていませんから安心してくださいね。

 

【参考資料】

・「カニの毒」 日本冷凍食品検査協会 野口玉雄(冷凍食品技術研究No.67)
・「貝毒のリスク管理に関するQ&A」農林水産省
・「自然毒のリスクプロファイル」農林水産省
・「南西諸島における有毒ガニの分布と生態に関する研究」鹿児島大学水産学部紀要 税所敏郎、牛尾嘉宏
・「有毒プランクトンと貝毒発生」水産研究・教育機構
・「麻痺性貝毒によるトゲクリガニの毒化」中央水研ニュースNo.38 及川寛、里見正隆、矢野豊
・「南西諸島の毒ガニ」東京大学農学部水産化学研究室 鴻巣章二
・「生産段階における貝毒のリスク管理」水産農林省
・「令和2年食中毒発生状況」厚生労働省
・「食物アレルギーとは」 厚生労働省
・「抗ヒスタミン薬、渦鞭毛藻、腸炎ビブリオ、シガテラ、ウモレオウギガニ、スベスベマンジュウガニ」 Wikipedia
・「自然由来の毒素」 農林水産省
・「貝毒のリスク管理の見直し」農林水産省

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