じゃがいもを調理するとき、必ず、芽の部分を取り除きますよね。
また、芽以外にも、皮が緑色になっていれば、緑色の部分がなくなるまで、
厚めに、しっかり皮をむいていますか?
なぜって、じゃがいもの芽や緑色になった部分には、ソラニンやチャコ
ニン等の有害成分が多く含まれているため、食べてしまうと食中毒を
起こす可能性があるからです。
しかし、芽がなく、皮にも緑色になった部分がないじゃがいもでも、
実は、微量ですがソラニンやチャコニン等が含まれているんです。
そして、ソラニン等をどのくらい摂取すると、食中毒の症状が出て
しまうのかは、分かっているんですね。
ちなみに、体重が50kgの人の場合、ソラニンやチャコニンを50mg摂取する
と、症状が出る可能性があるといわれています。
今回は、じゃがいもを何個食べると症状が出るのかを試算してみました
ので、じゃがいもを安心して美味しく食べていただくための参考にして
くださいね。
皮つきのじゃがいも、何個食べると食中毒になるの?
まず、皮つきのじゃがいものと皮をむいたじゃがいも、それぞれの場合について、
試算結果を紹介します。
その後で、皮つきか否かで、結果が異なる理由もお伝えしますね。
皮つきのじゃがいもの場合は6個です!
じゃがいもを皮ごと食べたとき、最悪の場合、6個で食中毒の症状が
起こる可能性があります。
「最悪の場合」というのは、じゃがいもによってグリコアルカロイドの
含有量にバラツキがありますから、含有量が多いじゃがいもばかりを
食べてしまった場合という意味です。
皮つきのじゃがいもを一度に6個も食べるなんて、普通はないと思いますが、
目安として覚えていてくださいね。
ただし、体重が50kgの大人を対象にしましたから、体重がもっと多い人や、
もっと少ない子供では個数が違ってきますよ。
皮をむいたじゃがいもの場合は9個です!
皮をむいたじゃがいもを食べたとき、最悪の場合、9個くらいで症状が
起こる可能性があります。
つまり、皮をむいたじゃがいもなら、9個まで安全に食べることが
できるんですね。
普通では、一度に、9個ものじゃがいもを食べることはありませんから、
食中毒を予防するためには、皮をむいて食べることが有効です。
ここでも、9個という数は、体重が50kgより多いか少ないかで違って
きますよ。
皮つきか否かで、個数が異なるのはなぜ?
じゃがいもには、芽や緑色の部分を取り除いても、微量ですがソラニンや
チャコニン等の『グリコアルカロイド』が含まれています。
グリコアルカロイドとは
じゃがいもには、ソラニン、チャコニン、ソラマリン、コマソニン、デミツシンなどの有害成分が含まれていて、これらの有害成分を総称してグリコアルカロイドと呼びます。
参考資料:ジャガイモ(Wikipedia)
グリコアルカロイドの含有量は、じゃがいも(いも部分)に、100gあたり
平均7.5mg含まれていて、そのうち3割~8割が皮の周辺にあるといわれて
います。
なので、同じ1個のじゃがいもでも、皮つきのほうにグリコアルカロイドが多く
含まれるので、試算結果が違っているんですね。
試算に使った、じゃがいもとデータは?
試算するにあたって、どんなじゃがいもを用いて、また、どんなデータから
計算したのかをお知らせしますね。
じゃがいもは1個、100g
試算に使ったじゃがいもは、1個、100gの普通に食べられている
じゃがいもです。
100gのじゃがいもとは、市販されている平均的な大きさのじゃがいもです。
グリコアルカロイドの含有量のデータは?
「食品に含まれるソラニンやチャコニン」(農林水産省)の中から、
[表1]及び[表2]のデータを使わせていただきました。
[表1] 市販じゃがいも中のα-ソラニン及びα-チャコニンの濃度
(グリコアルカロイドの95%はα-ソラニン及びα-チャコニンです)
品種名 | 部位 | α-ソラニンの濃度 (mg/100g湿重量) |
α-チャコニンの濃度 |
男爵 | 皮層部 (注1) | 19~24 | 31~37 |
髄質部 (注2) | 0.6~3.1 | 0.5~2.4 | |
注1:皮層部は約1mmの厚さでむいた皮 2:髄質部は皮層部を除いた部分 |
[表2] ジャガイモ(植物)の各部位におけるグリコアルカロイドの濃度
部位 | グリコアルカロイドの濃度 (mg/100g湿重量) |
通常の塊茎(全体) (注1) |
4.3~9.7 30~60 15~30 |
苦みのある塊茎 | 25~80 |
芽 | 200~730 |
葉 | 23~100 |
茎 | 2.3~3.3 |
花 | 215~500 |
果実 | 18~135 |
根 | 18~85 |
注1:塊茎(かいけい)とは、わたしたちが食べているイモの部分のことです。塊茎は地中にある茎の部分が養分を蓄えて肥大化したものです。 |
出典:消費・安全「食品に含まれるソラニンやチャコニン」(農林水産省)
個数の計算方法は?
体重50kgの大人が50mgのグリコアルカロイドを摂取すると食中毒の
症状が出る可能性があります。
なので、体重50kgの大人が、じゃがいもを、摂取量が50mgになるまで
食べ続けたときの個数を算出しました。
皮つきのじゃがいもを食べたときの個数
皮の付いたじゃがいものグリコアルカロイドの含有量は、[表2]の
「通常の塊茎(全体) 4.3~9.7mg/100g」を使いました。
ここでは、最悪の場合を想定して、9.7mg/100gの値を採用しています。
100gのじゃがいもに含まれるグリコアルカロイドの濃度は9.7mgですから、
症状が出る50mgになるまで食べ続けると、6個弱になりますね。
つまり、最悪の場合、6個食べると食中毒の症状が出はじめる可能性が
あるんです。
皮をむいたじゃがいもを食べたときの個数
皮をむいたじゃがいものグリコアルカロイドの含有量は、[表1]の
「髄質部 ソラニン0.6~3.1mg、 チャコニン 0.5~2.4mg」の値を
使いました。
グリコアルカロイドの95%はα-ソラニンとα-チャコニンですから、
最悪の場合を想定して、じゃがいもの含有量を3.1+2.4=5.5mg/100gと
しました。
なので、食中毒の症状が出る50mgになるまで食べ続けるとすれば、
約9個になりますね。
つまり、最悪の場合、9個以上食べると食中毒になる可能性があるんです。
芽や緑色の部分のあるじゃがいもでは何個?
じゃがいもには、食べる部位(いも部分)以外の部分にも、グリコアルカロイドが
含まれています。
特に多く含まれている部分は芽ですが、葉、茎、花、果実、根にも含まれて
いるんですね。
しかし、芽の部分、緑色になった皮の部分、葉、茎、花などを食べることは、
普通ではあり得ないことなので計算しませんでした。
ちなみに、じゃがいもの各部位のグリコアルカロイドの濃度は[表2]の
通り、芽と花の濃度の高さが際立っています。
なので、塊茎(いも部分)以外の部位は、絶対に食べないでくださいね。
グリコアルカロイドとは、どんな毒素?
グリコアルカロイドは『自然毒』と呼ばれる毒素で、わたしたちが
たくさん摂取すると食中毒の症状を起こしてしまいます。
自然毒とは
植物の果実や若芽が動物や昆虫などの餌になることを抑止するために、 植物が持った有毒成分のことを自然毒といいます。自然毒には「植物性 自然毒」と「動物性自然毒」の2種類があって、じゃがいもの毒は植物性 自然毒です。天然毒素とも呼ばれます。
参考資料:自然毒(Wikipedia)
グリコアルカロイドは熱に強い!
グリコアルカロイドは熱に強いため、じゃがいもを茹(ゆ)でても、
ソラニンやチャコニンは分解しないので、毒素は減りません。
ですから、調理をする準備の段階で芽や緑色になった部分は
しっかり取り除いておく必要があります。
ソラニンとチャコニン自体は、170℃以上で分解が始まるという海外での
報告がありますが、濃度の計測や加熱条件が様々で、毒素の減り方にも
ばらつきがあって、期待できないそうです。
グリコアルカロイドによる食中毒の症状は?
食中毒の症状は、おう吐、下痢、腹痛、めまい、動悸、耳鳴り、意識障害、
けいれん、呼吸困難などです。
症状は、早いときには数分後から出始め、遅いときは数日後に出ることも
あるようです。
じゃがいもを食べたあとに、こうした症状が出たら、すぐに医師の診察を
受けてくださいね。
グリコアルカロイドって、どんな味?
グリコアルカロイドのうちの成分で、α-ソラニンとα-チャコニンは
じゃがいもに苦味を与えるそうです。
さらに、加熱調理によっても減ることがないため、もし、料理を食べたときに
苦味やえぐみを感じた場合は、すぐに食べるのを中止してくださいね。
じゃがいもによる食中毒の発生状況は?
じゃがいもによる食中毒は、毎年、1~2件が発生しています。
国内で報告されたじゃがいもによる食中毒の多くは、学校で栽培された
じゃがいもを使った調理実習での喫食などによるものです。
そして、食中毒のおもな原因は、つぎの3つであることが分かっている
んですね。
①じゃがいもの芽が完全に取り除いていなかった。
②緑色になった皮のむき方が足りなかった。
③未熟で小さなじゃがいもをたくさん食べていた。
未熟で小さなじゃがいもは、ソラニンやチャコニンを多く含んでいる
ことがあるので、自分で栽培したじゃがいもを食べるときにも注意して
くださいね。
まとめ
じゃがいもは、もともと、毒素を持つ植物なのですが、適正な処理に
よって食用にされている野菜なんです。
なので、たくさん食べると食中毒を起こすことがあるんですね。
今回は、どのくらい食べると症状が出るのか、具体的な個数を試算してみました。
・じゃがいもを皮ごと食べた場合、6個で症状が出る可能性があります。
・皮をむいてじゃがいもを食べた場合、9個で症状が出る可能性があります。
詳しい解説は『皮つきのじゃがいも、何個食べると食中毒になるの?』に ジャンプして、もう一度チェックしてくださいね!試算結果から、皮に栄養が多いのは確かなのですが、安全を優先して、
皮はむいて食べることをおススメします。
また、実際に発生したじゃがいもによる食中毒事故は、ほとんど学校菜園
のじゃがいもを食べた子供たちに起きているんですね。
原因は、じゃがいもの芽、緑色になった皮の部分、そして未熟な小さな
じゃがいもを食べたことによると判明しています。
今回は、じゃがいもをどのくらい食べると食中毒になるのかをお伝えして
きました。
でも、実際には、わたしや身辺の人で、じゃがいもで体調を崩したという
話を聞いたことがないんですね。
食品安全委員会(内閣府)による「ジャガイモによる食中毒について知ろう!」
の中でも、このようにコメントしていますよ。
農家が生産し、お店で販売されているジャガイモの場合、食中毒を起こすほどの量のソラニン等が含まれていることは、まずありません。しかし、自家栽培した未成熟で小さなジャガイモや、日光が当たり皮の部分が緑色になってしまったジャガイモの場合は、ソラニン等の含有量が多くなっている可能性が高く、注意が必要です。
【参考資料】
・「ジャガイモによる食中毒について知ろう!」食品安全委員会(内閣府)
・「ジャガイモによる食中毒を予防するために」:農林水産省
・「ソラニンやチャコニンによる健康影響」:農林水産省
・「食品に含まれるソラニンやチャコニン」:農林水産省
・「自然毒のリスクプロファイル」高等植物:ジャガイモ:厚生労働省
・「有毒植物による食中毒に注意しましょう」:厚生労働省
・ジャガイモ:Wikipedia