じゃがいもの芽には毒素が含まれていることはよく知られていますから、
芽の出たじゃがいもは、まず芽を取り除いてから調理していますよね。
でも、じゃがいもの芽以外にも毒素のある部分があることは、意外に
知られていないのではないでしょうか?
もともと、じゃがいもは、イチョウ(ギンナン)、ウメ、ワラビなどと
同じように、有毒植物に分類されていますが、有毒ながら処理法によって
食料とされている野菜なんですね。
実は、平成30年(2018年)で、有毒植物によって食中毒にかかった患者の
数はじゃがいもが一番多かったんです。
なので、今回は、じゃがいものどの部分に毒素が含まれているのかをお伝
えするとともに、その毒素を取り除く方法も紹介していきますね。
じゃがいもには、芽のほかにも毒があるって本当!?
じゃがいもには、芽のほかに、毒のある部分があるのは本当です。
その毒は『グリコアルカロイド』と呼ばれる自然毒で、もし食べて
しまうと体調を崩すことがある有害な成分です。
グリコアルカロイドとは
じゃがいもには、有毒な成分のソラニン、チャコニン、ソラマリン、コマソニン、デミツシンなどが含まれています。これらの有毒成分を総称してグリコアルカロイドと呼びます。なお、じゃがいものグリコアルカロイドの95%はソラニンとチャコニンです。
参考資料:ジャガイモ(Wikipedia)
自然毒とは
植物の果実や若芽が動物や昆虫などの餌になることを抑止するために、植物が持った有毒成分のことを自然毒といいます。自然毒には「植物性自然毒」と「動物性自然毒」の2種類があって、じゃがいもの毒は植物性自然毒です。また、天然毒素ともいいます。
参考資料:自然毒(Wikipedia)
わたしたちが食べているじゃがいもは、地中にある茎の部分が養分を
蓄えて肥大化したもので、塊茎(かいけい)といいます。
そして、グリコアルカロイド(自然毒)は、この塊茎全体に含まれて
いて、そのうち3~8割は皮の周辺にあります。
さらに、グリコアルカロイドは、強弱の差はあるものの、塊茎ばかりでは
なく、葉、茎、花、果実、根にも含まれているんですね。
なお、わたしたちが食べている塊茎の部分でも、光が当たったり、
傷がついたりすると、その部分のグリコアルカロイドの量が増えます。
光が当たると、その部分は緑色に変色するので、見た目で確認する
ことができますよ。
ちなみに、グリコアルカロイドの濃度が一番高いのは芽で、次に高いのは
花、その次は緑色っぽくなった皮の周辺です。
なので、じゃがいもの芽と緑色の部分だけは必ず取り除いてくださいね。
また、緑色になっていなくても、できるだけ、皮はむいたほうが安心です。
わたしたちは、じゃがいもを食べても大丈夫なの?
農家さんが生産し、お店で販売されているじゃがいもに、体調を崩すほど
の量のグリコアルカロイドが含まれていることは、まずありません。
しかし、皮の周辺では、グリコアルカロイドの濃度が高いことが分かって
いるので、わたしたちの体への影響を調べてみました。
体重が50kgのおとなの場合、グリコアルカロイドを50mg摂取すると
食中毒の症状が出る可能性があるといわれています。
また、子どもの中毒量は、15.6mg~40mgとされています。
実際に、市販されているじゃがいものグリコアルカロイドの量を調べた
データから、食中毒の可能性を確かめることができました。
市販じゃがいも中のα-ソラニン及びα-チャコニンの濃度
(グリコアルカロイドの95%はα-ソラニン及びα-チャコニンです。)
品種名 | 部位 |
α-ソラニンの濃度 |
α-チャコニンの濃度 (mg/100g湿重量) |
メークイン | 皮層部 ※1 | 26~32 | 50~69 |
髄質部 ※2 | 0.3~1.2 | 0.3~1.5 | |
男爵 | 皮層部 | 19~24 | 31~37 |
髄質部 | 0.6~3.1 | 0.5~2.4 | |
※1:皮層部は約1mmの厚さでむいた皮 ※2:髄質部は皮層部を除いた部分 |
上表から、髄質部(イモの部分)については、大量に食べない限り
グリコアルカロイドによる食中毒を心配する必要はまったくないことが
分かります。
しかし、皮層部(皮の部分)のグリコアルカロイドについては、食中毒の可能性が、
まったく無いとは言い切れません。
つまり、皮の部分をたくさん食べ過ぎてしまうと危険性が高くなるんですね。
なので、じゃがいもの皮は、できるだけ食べないことをおすすめします。
じゃがいもによる食中毒の症状は?
グリコアルカロイドは加熱しても分解しませんから、煮たり、炒めたり
して調理したじゃがいもでも、食べてしまうと食中毒を起こす可能性が
あります。
食中毒の症状は、おう吐、下痢、腹痛、めまい、動悸、耳鳴り、意識障害、
けいれん、呼吸困難などです。
症状は、早いときには数分後から出始め、遅いときは数日後に出ることも
あります。
じゃがいもを食べたあとに、こうした症状が出たときは、すぐに医師の
診察を受けてくださいね。
じゃがいもによる食中毒を予防するには?
じゃがいもは、毒のある野菜ですから、ちょっと気を緩めると食中毒を
起こてしまうかもしれません。
なので、じゃがいもを安全に、美味しくいただくための方法を紹介します
から、ぜひ覚えていてくださいね。
じゃがいもの買い方
・芽が出ていたり、皮が緑色になったところがあるじゃがいもは買わない。
・家庭での長期間の保存を避けるために、必要な量だけを買う。
じゃがいもの保存方法
通気性が良くなるように、かごや穴を開けたポリ袋に入れて、暗くて、
涼しい場所に保管する。
20℃以上になると発芽、腐敗しやすいので、10℃くらいが適温です。
また、カットしていなければ、冷蔵庫に入れる必要はありません。
リンゴと一緒に保存するといい?
冷暗所にリンゴと一緒に保存すると発芽しにくいといわれています。しかし、この方法は、リンゴから発生するエチレンガスの濃度や時間・温度のコントロールが困難で、失敗の確率が高いです。
参考資料:ジャガイモ(Wikipedia)
芽の取り除き方
芽の周囲にもグリコアルカロイドが含まれていますから、芽から1cm
くらいの範囲を取り除いてください。
なお、芽がたくさん出ていて、じゃがいも自体ががふかふかになって
いる場合には、捨ててくださいね。
緑色っぽくなったじゃがいもの皮のむき方
緑色の部分があれば、皮を厚めにむき、緑色の部分のまわりもしっかり
むいてくださいね。
皮を厚くむいても、緑っぽさが残る場合、半分に切って内部を確認しましょう。
それでも、中のほうまで緑っぽいようなら、捨ててくださいね。
皮をむいて、安全性をアップ!
じゃがいもでも、ほかの野菜のように「皮には栄養が豊富」なのは確かですが、
安全を優先して、皮をむいて調理しましょう。
芽がなく、皮にも緑色になった部分もなく、かつ、適当な大きさに成熟した
じゃがいもでも、微量ですがグリコアルカロイドを含んでいます。
しかし、皮むきをすることによって、じゃがいも中の毒素は30%~70%程度
取り除くことができるという報告があります。
(参考資料:ソラニンやチャコニンによる食中毒を防ぐには:農林水産省)
また、皮をむいて使いたいサイズに切ったじゃがいもは、必ず、5分くらい
水に浸けましょう。
浸水することで、グリコアルカロイドが水の中に溶け出しますし、さらに、
調理する際の変色やくっつきを防ぐことができますよ。
新じゃがでも皮は食べないで!
新じゃがは、完熟する前に収穫するため、比較的小さめで、水分が多く、
みずみずしいのですが、やはり、グリコアルカロイドが含まれていますから、
たくさん食べないでくださいね。
また、新じゃがは皮が薄いので、皮をむかずに丸ごと調理できますが、
できるだけ皮は食べないようにしましょう。
食中毒を防ぐ、最後の砦は味覚!
十分に注意して調理した場合でも、食べたときに、苦味やえぐみを感じたら、
すぐに食べるのを中止してくださいね。
学校菜園や家庭菜園で作るじゃがいもが危ない!?
じゃがいもによる食中毒が、全国で、毎年1~3件発生しています。
そして、発生している施設は、ほとんど学校なんですね。
つまり、学校菜園で作ったじゃがいもを食べた生徒たちが食中毒に
かかっているんです。
学校での食中毒が多発している原因は、じゃがいもが自然毒を持つ
有毒植物であることをしっかり認識していなかったためのようです。
食品安全委員会(内閣府)は、原因を調査した結果を、次の通り指摘して
います。
①過密に栽培したり、肥料不足で、じゃがいもが未成熟になりやすい。
(未成熟な小さなじゃがいもはグリコアルカロイドの濃度が高い)
②栽培中の土寄せ(じゃがいもを地表に出させないために土を盛ること)
が不十分で、じゃがいもに日光があたりやすい。
③収穫するときに、じゃがいもを傷つけやすい。
④じゃがいもの収穫後、遮光せずに保管することがある。
⑤皮を取り除かず、そのまま調理して食べることが多い。
上記①~⑤によって、許容値以上のグリコアルカロイドを摂ってしまった
可能性が高いんです。
また、家庭菜園で自分でじゃがいもを作る場合でも、学校菜園と同じ
ような状況が予想されるので、十分気を付けてくださいね。
学校で発生した食中毒の事例
2006 年 7 月、東京都 江戸川区内の小学校で、 理科の実習用に校内で栽培したジャガイモを 13 日及び 14 日に収穫し給食室で保管、 18 日午前 10 時 30 分ごろから給食室で調理員が皮付きのまま茹で上げ、 6 年生 4クラス(児童: 127 名、教職員: 5 名)に提供。「茹でジャガイモ」を喫食後、 30 分後から腹痛、吐き気、喉の痛みの症状を呈した が、いずれも軽症で、全員快復している。 患者は 6 年生の児童 75 名と教職員 2 名。小学校に残っていた茹ジャガイモ 2 個と、参考品として同一の畑に残っていた生のジャガイモ 2 個を、東京都健康安全研究センター食品化学部食品成分研究科で検査したところ、ジャガイモの皮や芽に多く含まれるソラニン類が高濃度に検出され、これが原因であることがわかった。 (2006 年 東京都報道資料 )
出典:「自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ジャガイモ」(厚生労働省)
こんなじゃがいもは食べられません!
じゃがいもの芽や皮に含まれるソラニンやチャコニンなどの毒素とは別に、
こんな状態のじゃがいもは腐っている可能性が高いので食べられません。
・異臭がする :食べられません。
・カビが生えている :食べられません。
・茶色の汁が出る :食べられません。
ただし、つぎのようなじゃがいもは、切ったときに、しばらくすると
茶色っぽくなる現象と同じなので、食べることができます。
・切ってみたら茶色っぽい :食べられます
・茹でたら黒っぽくなった :食べられます
また、切ってみたとき、中心部分が空洞になっていることが、まれに
あるんですが、空洞部分を取り除いて食べてくださいね。(中心空洞症)
いづれの場合でも、判断で迷ったら、安心して美味しく食べるため、
思い切って捨ててしまうことをおススメします。
【トピックス】海外でのじゃがいも事情
じゃがいもについて、海外での事情を2つ紹介しますね。
じゃがいもを多く食べるドイツでは?
過去100年間で、ばれいしょ(じゃがいも)料理の摂取を介した中毒患者はわずか数人しか報告、記録されていない。グリコアルカロイド中毒患者が稀(まれ)なのは、苦味を感じて用心するからであると考えられる。しかし、じゃがいもによる食中毒の症状はグリコアルカロイド中毒特有の症状ではないことから、実際の患者数はかなり多いと考えられる。グリコアルカロイド中毒が原因の死亡者は、過去50年間報告されていない。
引用:食品安全総合情報システム:食品安全委員会(内閣府)
情報元:ドイツ連邦リスク評価研究所(Bfr)
日本では使えない発芽防止剤!?
海外では、収穫後に「クロルプロファム」を散布して、発芽を抑制する方法をとることがある。日本では除草剤として登録されている農薬で、ジャガイモの発芽防止の使用には承認されていない。この薬品はカナダ、アメリカ合衆国、オランダ、その他の主要ジャガイモ生産国では、フライドポテトやポテトチップスなどの加工用ジャガイモに散布される農薬なので、これらの国々から輸入するジャガイモ加工製品からは必ず検出される。
引用:ジャガイモ(Wikipedia)
まとめ
じゃがいもの芽には「グリコアルカロイド」という自然毒(有害成分)が
含まれていて、芽のほかにも、塊茎(イモの部分)、葉、茎、花、果実、
根にも含まれています。
でも、農家さんが生産し、お店で販売されているじゃがいもに、体調を
崩すほどの量のグリコアルカロイドが含まれていることは、まずありま
せんよ。
しいていえば、じゃがいもの皮には比較的多く含まれるので、できるだけ、
むいて調理しましょう。
しかし、じゃがいもの芽、緑色に変色した部分、未熟な小ぶりなじゃがいも、
には、グリコアルカロイドが多く含まれているので、食中毒になる可能性が
あります。
なので、じゃがいもの買い方から調理方法まで、本文中の
『じゃがいもによる食中毒を予防するには?』で詳しく紹介しましたから、
ぜひ、参考にしてくださいね。
また、皮が薄く、みずみずしい風味の新じゃがは、完熟前に収穫した
小さめなじゃがいもなので、やはり、グリコアルカロイドが含まれて
いますから、たくさん食べないでくださいね。
【参考資料】
・ジャガイモ:Wikipedia
・「ジャガイモによる食中毒を予防するために」:農林水産省
・「ソラニンやチャコニンによる健康影響」:農林水産省
・「食品に含まれるソラニンやチャコニン」:農林水産省
・「ばれいしょ中のソラニン(グリコアルカロイド)に関するFAQ」
ドイツ連邦リスク評価研究所:食品安全委員会(総理府)
・「ジャガイモによる食中毒について知ろう!」食品安全委員会(総理府)
・【読み物版】「生活の中の食品安全ージャガイモによる食中毒について
知ろう!ーその1、2」食品安全委員会(総理府)
・「自然毒のリスクプロファイル」高等植物:ジャガイモ:厚生労働省
・「有毒植物による食中毒に注意しましょう」:厚生労働省