今のところ、食あたりのリスクのない牡蠣(カキ)は存在しません。
つまり、カキを食べるならば、食中毒になるかもしれないという不安から
逃れられないという意味なんですね。
カキによる食中毒の原因は分かっていますが、その原因を取り除いて食あたりを
完全に予防することは、現在でも実現していません。
しかし、カキは生でも、焼いても美味しいうえに、『海のミルク』と
呼ばれるほど豊富な栄養を含んでいるため、食あたりのリスクを冒してでも
食べたいという欲求はなくなりませんよね。
なので、今回は、カキで食あたりになる原因と予防法をお伝えするとともに、
行政と生産者による対策の現状をお知らせしますので、過度に心配することなく
楽しくカキを食べてくださいね。
カキで食あたりになるのはなぜ?
カキによる食あたりは、ほとんど、この4つの原因で起こることが分かっています。
(1)ノロウイルス
(2)貝毒
(3)腸炎ビブリオ菌
(4)牡蠣(かき)アレルギー
カキは生まれつき毒のある貝ではありませんし、自ら毒を作りだす能力が
あるわけでもありません。
なので、カキが悪者だから、食べる人を食中毒の苦しみに落とし入れる
わけではないんですね。^^;
実は、4つの原因とカキとの関係はこういうことなんです。
『ノロウィルス』と『貝毒』は、カキの生態によって外部から体内に
毒素を取り込み、有毒化したカキを食べたときに食あたりを起させます。
『腸炎ビブリオ菌』は、海水中に生息している細菌なので、カキが汚染して
いる場合に、おもに生で食べた人が食あたりになってしまいます。
また、『牡蠣アレルギー』はカキに蓄積したウイルスや細菌による
食あたりではなく、食べる人の体質によって起こるんですね。
では、それぞれの原因をもう少し詳しくお伝えしていきますね。
原因(1)ノロウィルス
ノロウイルスとは
・手指や食品などを介して、経口で感染し、人の腸内で増殖。
・他のウイルスに比べて少ないウイルス量で感染します。
・感染すると24~48時間くらいで発症し、症状はおう吐、下痢、腹痛などで、健康な方は軽症で回復しますが、子どもやお年りなどでは重症化することがあります。
・通常、症状は1~2日続いた後、治癒し、後遺症はありません。
・発症したときに効果のある抗ウイルス剤はないので、対症療法に限られます。
・食中毒は、特に、11月~2月の冬季に流行します。
・熱には弱いです。
参考資料:ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省)
カキは大量の海水を取り込み、プランクトンなどの餌(えさ)を体内に残して、
海水を出水管から排水することによって栄養摂取と呼吸をしています。
なので、このメカニズムによって、海水中のノロウイルスが体内に
濃縮されてしまうんですね。
また、カキのろ過量は他の二枚貝に比べて多く、1個のカキは毎日400ℓ
もの海水を入出しているために、毒素を体内に蓄積しやすいんです。
また、ノロウィルスは人の腸内で増殖し、完全に浄化されていない
生活排水に含まれているので、河口に近い海浜で生育するカキによる
食あたりのリスクが高くなることは予想できますね。
原因(2)貝 毒
貝毒とは
・国内での貝毒は、『麻痺性貝毒』と『下痢性貝毒』の2種類がほとんどです。
・『麻痺性貝毒』の症状は食後約30分で、手足のしびれや頭痛が起きますが、12時間以内に回復に向かいます。
・『下痢性貝毒』の症状は食後約30分~4時間におう吐や下痢を起こしますが、約3日ほどで全快します。
・貝毒は複数の毒成分を含んでいますが、毒成分は熱に強く、加熱しても毒性は弱くなりません。
参考資料:健康に悪影響を与える可能性のある魚介類中に含まれる物質(農林水産省)
貝毒は、おもに二枚貝(ホタテガイ、アサリ、カキなど)が毒素を持った植物
プランクトンを餌として食べることによって、体内に毒を蓄積させることで
起こります。
そして、貝毒の最も重要な特徴は、含まれる毒成分が熱に強いため、
加熱調理でも毒性を弱めることができないことなんです。
また、毒を持ったプランクトンは一年中どこにでも生息しているわけではなく、
発生しやすい場所と時期が、ある程度限られています。
有毒プランクトンが発生しやすい時期は、おもに3月~5月です。
原因(3)腸炎ビブリオ菌
腸炎ビブリオ菌とは
・食後6~12時間で発症し、激しい腹痛をともなう下痢が起こり、おう吐、発熱のこともあります。
・症状は2~3日で回復し、一般に予後は良好です。
・8月を発生のピークとして、7~9月(海水温が20℃を超える時期)に多発します。
・好塩性があり、3%食塩濃度で最もよく発育し、温度条件(20℃)がそろえば急速に増殖します。
・熱には弱く、煮沸すれば瞬時に死滅します。
・低温にも弱い菌なので10℃以下(冷蔵庫)では増殖しません。
参考資料:腸炎ビブリオ(Wikipedia)、腸炎ビブリオ感染症とは(NIID 国立感染症研究所)
腸炎ビブリオ菌はおもに海水中に生息する細菌で、菌が付着した魚介類を
生で食べることで食あたりを起こします。
増殖が早い菌であるため、夏期に常温で放置した魚介類などでは2~3時間のうちに
発病菌数にまで増殖します。
なので、夏が旬の『イワガキ』を生食する場合には、腸炎ビブリオ菌に
よる食あたりのリスクが高くなります。
また、おもに旬の冬に食べられる『マガキ』についても、水温のまだ高い
9月には腸炎ビブリオ食中毒のリスクがあるんですね。
マガキとは
日本でカキといえば、普通マガキのことで、秋から冬にかけてが旬です。
牡蠣(Wikipedia)より
イワガキとは
マガキとは対照的に、春から夏が旬のカキで、「夏ガキ」ともいわれます。
牡蠣(Wikipedia)より
原因(4)牡蠣アレルギー
牡蠣アレルギーで食あたりの症状をおこすのは、カキに有毒物質が
含まれているわけではなく、食べた人の体質によって、カキの特定の成分に
過剰に反応してしまうためです。
食後1~2時間に発症し、症状は腹痛、おう吐、下痢などです。
また、牡蠣アレルギーの特徴的な症状として、8割くらいの人の皮膚に
じんましんや湿疹が現れるので、アレルギーかどうかの判断ができます。
今までに、カキを食べるたびに繰り返し食あたりを起こすことがあれば
アレルギーを疑ってください。
なお、アレルギーによる食あたり症状は重症化する場合がありますから、
気をつけてくださいね。
もし、血圧が下がってきたり、呼吸が苦しくなったり、意識がもうろうと
してきたりしたら、アナフィラキシーショックのサインですから、
ためらわずに救急車を呼んでください。
アナフィラキシーショックとは
アレルギーのために全身に症状が起こることをアナフィラキシーといいますが、このアナフィラキシーによって生命の危険な状態になることをアナフィラキシーショックといいます。
カキによる食あたりは防げる!?
カキが体内に取り込んだ毒素は内臓部分(消化器官など)に蓄積されるので、
内臓を取り除いてしまえば食あたりのリスクも無くすことができます。
しかし、カキの食べられる部位のほとんどは内臓器官が占めていますし、
カキの独特の味わいも内臓部分にあるため、カキを食べる醍醐味自体も
なくなってしまうんです。
なので、カキ特有の風味と食感を残したままで、食あたりを予防するには、
つぎの2つの方法しかありません。
(1)カキが含む毒素を不活性化させる
不活性化とは
微生物などの病原体を熱、紫外線、薬剤などで死滅させることを不活性化といいます。失活化ともいいますよ。
(2)毒素を含まないカキを販売する
では、具体的にどうするのかを紹介していきますね。
(1)カキが含む毒素を不活性化させる
ノロウイルスと腸炎ビブリオ菌は熱に弱いため、加熱調理によって
食あたりを予防することができます。
しかし、貝毒は熱に強く、加熱しても毒素を不活性化させることができない
ため、別の方法をとらなければなりません。
ノロウイルスを不活性化させるには?
厚生労働省は二枚貝のノロウイルスの予防に有効な手段として、
次のような加熱調理を推奨しています。
一般にウイルスは熱に弱く、加熱処理はウイルスの活性を失わせる有効な手段です。ノロウイルスの汚染のおそれのある二枚貝などの食品の場合は、中心部が85℃~90℃で90秒以上の加熱が望まれます。
「ノロウイルスに関するQ&A」(厚生労働省)
ただ、食品中に存在するウイルスはタンパク質で保護されているため、
不活性化を確実なものとするには、より厳しい加熱条件が必要だという
指摘もあるんですね。
実際には、カキフライにする場合ですと180℃の油温で4分の加熱で、
中心部まで十分に加熱された状態になります。
また、焼きカキなら、殻つきのまま焼き網の上で10~15分(大きさによる)
焼くのがカキの産地(三重県鳥羽市など)で行っている方法です。
腸炎ビブリオ菌を不活性化させるには?
腸炎ビブリオ菌は高温、低温、真水に弱いのですが、ノロウイルスと同様
に加熱が有効です。
目安として、中心部が60℃以上、10分間以上、加熱調理することで
不活性化させることができます。
また、腸炎ビブリオ菌は増殖が速い菌なので、条件が揃うと2~3時間で
発症菌数にまで増殖するので、取り扱うときには次のことに気を付けて
ください。
・生のまま常温で放置しない
・冷蔵保存(10℃以下)する
・真水でよく洗浄する
なお、汚染した水や器具からの二次感染による食あたりも起きているので、
カキを扱った器具類をそのまま他の食材に使わないようにしてくださいね。
(2)毒素を含まないカキを販売する
毒素を含まないカキを販売するために、2つの取り組みが行われています。
一つは、加熱しても不活性化できない貝毒に対して、貝毒を含むカキは
出荷しないという取り組みです。
もう一つは、ノロウイルスを含まないカキを養殖するという取り組みです。
貝毒を含まないカキを販売する!
貝毒は前述した通り、熱に強いため、加熱しても不活性化できません。
なので、もしスーパーで買ってきたカキに貝毒が含まれていたら、という
不安もありますが、その心配はいりませんよ。
『食品衛生法』によって、有害食品等の販売の禁止が規定されていて、
罰則もあるため、貝毒を含むカキが見つかったときには、生産者によって
出荷が停止されるからです。
具体的には、カキを養殖する海域では有毒プランクトンの監視とカキの
貝毒検査によって、規定値以上の数値が検出されると出荷を停止するシステムが
導入されているんです。
つまり、貝毒だけが加熱処理によっても死滅させることができないため、
このような徹底した管理がされているんですね。
このように監視・管理体制が有効に機能しているため、1981年以降では、
販売されている二枚貝等(カキを含む)の貝毒が原因となった食中毒は
発生していません。
参考資料:貝毒のリスク管理に関するQ&A(農林水産省)
「食品衛生法第6条(有害食品等の販売等の禁止)」(厚生労働省)
ノロウイルスを含まないカキを養殖する!
瀬戸内海に浮かぶ広島県大崎上島で、ノロウイルスの影響を極限まで
減らしたカキ『オイスターぼんぼん』が育てられています。
こんな記事が、農林水産省Webマガジン「aff(あふ)」2022年1月号に
掲載されましたので紹介しますね。
JR西日本と養殖業者「ファームスズキ」が塩田跡の人工池で、海水を
自然ろ過して、人の生活排水が流れ込むことも、ノロウイルスの影響も
受けにくい環境を作ってカキを育てているんです。
カキは人気が高く魅力的な食品なので、こうした挑戦が行われても当然
かもしれません。
この『オイスターぼんぼん』、すでにホテルやレストランで使われている
ようなので、機会があったらいただいてみたいですね。
牡蠣(かき)アレルギーの対策は?
牡蠣アレルギーに限らず、食物アレルギーはある年齢から急に現れることは
よくあることなので、ある時を境にカキを食べるたびにアレルギー症状が
現れることがあります。
もし、食べるたびにアレルギー症状が現れるようになった場合には、
牡蠣アレルギーを疑ってください。
牡蠣アレルギーは症状が重症化して生命にかかわることがありますから、
いったん食べるのを中止して、病院の『アレルギー科』を受診されること
をおススメします。
ちなみに、牡蠣アレルギーのある方は、カキを焼いても、煮ても、カキの
エキスが入ったオイスターソースでもアレルギー症状がでることもある
ようです。
なので、疑いがあるならアレルギーの有無をはっきりさせて、無用な不安
を取り除いてくださいね。
毒素に負けない体力とは!?
一緒に食べたカキなのに、食あたりを起こした人となんともない人がいる
のは、食べたときの体力が関係しているようなんです。
養殖の過程でしっかり管理された生食用のカキでも、含まれている
ウイルスや細菌はゼロ(0%)というわけではなく、規定値以下という
規準で管理されているんですね。
ただし、ノロウイルスだけは少ないウイルス量でも食中毒を発症してしまう
という特徴は知っておいてください。
また、焼いたり、揚げたりしたカキであっても、加熱が不十分で、
ウイルスなどが完全に死滅していないことも考えられます。
なので、食べるときの健康状態が悪く体力が下がっているときには、
わずかなウイルス量でも、からだが対処できずに食あたりを起こして
しまうんですね。
カキを食べるときの健康状態を気にかけるなんて、思いもよらないこと
かもしれませんが、実は、意外な盲点なんです。
疲れがたまっている時や風邪をひいている時など、体調がすぐれないと
感じるときには、生でも焼いてもカキを食べるのは控えてくださいね。
国内のカキによる食中毒は、本当は少ない!?
毎年、カキによる食中毒は発生していますが、行政・地方自治体・生産者
・流通業者などの努力によって、発生状況は急激に改善されています。
最近のカキによる、報告のあった食中毒発生件数は以下の通りです。
ただ、医療機関にかからなくても回復したような軽い症状の食あたりは、
もっと多いと予想しますが、それにしても意外に少ないんですね。
なので、販売されているカキについて、食中毒を過度に心配している
ように感じます。
貝 毒
貝毒は、毎年、発生は確認されていますが、昭和53年以降、生産海域での
貝毒の監視によって出荷を自主規制しているため、販売されている二枚貝が
原因となった食中毒は報告されていません。
ちなみに、令和2年において、出荷を自主規制した件数は麻痺性貝毒が82件、
下痢性貝毒は9件でした。
腸炎ビブリオ菌
令和2年には、全国の食中毒発生件数は887件でしたが、その中で
腸炎ビブリオ菌による発生件数は1件だけでした。
ノロウイルス
令和2年における全国の食中毒発生件数は887件でしたが、その中で
ノロウイルスによる食中毒は99件でした。
このノロウイルスによる99件の中で、貝類による発生件数は16件で、
カキによる食中毒もこの16件に含まれています。
参考資料:生産海域における貝毒の監視及び管理措置について(農林水産省)
貝毒の発生状況(農林水産省)
令和2年食中毒発生状況 (厚生労働省)
まとめ
カキによる食あたりは、おもにこの4つの原因によって起きています。
ノロウイルス
貝毒
腸炎ビブリオ菌
牡蠣アレルギー
『ノロウイルス』と『腸炎ビブリオ菌』については、加熱調理と取り扱う
ときの衛生管理に気を付けることで食中毒を予防することができます。
また、熱に強い『貝毒』については、生産海域の有毒プランクトンの監視
とカキの検査によって、出荷段階で完璧に管理されています。
しかし、生食用のカキについては、ウイルスや細菌の量が規格値以下であっても
ゼロではありませんから、食べるときの体調が重要なポイントであることを
強調したいです。
いずれにしても、最近のカキによる食中毒の発生件数は、行政、自治体、
生産者などの努力によって、驚くほど減少しています。
なので、スーパーなどで販売されているカキで食あたりになることを
過度に心配しているように感じます。
なお、『オイスターぼんぼん』のような毒素を含まないカキを育てる試みに、
大いに期待したいですね。
追伸 (”あたらない”牡蠣が現実に!)
昨日(2023・8・4) 、TBSテレビで牡蠣の食あたりに関する報道がありました。
”当たらない”牡蠣!世界初の陸上養殖に成功 世界展開も視野
食あたりは牡蠣が海中のウィルスを取り込むことで発生します。そこで、オイスターバーを展開している会社(ゼネラルオイスター)が”当たらない”牡蠣を目指して研究を続けてきましたが、ついに完全陸上養殖に成功しました。
原理を簡単に解説しますね。
ポイントはウイルスのいない深さ200m以上の深層水をくみ上げ、その深層水の中で
牡蠣を育てるところにありました。
ただし、深層水には牡蠣の餌となる藻類が少ないことが多きな壁になっていたんです。
それというのも、牡蠣は二枚貝の中でもきわだって大量の海水を吸い込み、排出して
大量の餌を取り込みます。
今回の”当たらない”牡蠣の養殖に成功したのは、この餌を大量に育てることに成功した
からなんですね。
3年以内をめどに、市場への展開を目指しているそうです。
いよいよ、”当たらない”牡蠣が現実味を帯びてきましたね。。
【参考資料】
ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省)
健康に悪影響を与える可能性のある魚介類中に含まれる物質(農林水産省)
腸炎ビブリオ(Wikipedia)
腸炎ビブリオ感染症とは(NIID 国立感染症研究所)
牡蠣(Wikipedia)
「食品衛生法第6条(有害食品等の販売等の禁止)」(厚生労働省)
貝毒のリスク管理に関するQ&A(農林水産省)
生産海域における貝毒の監視及び管理措置について(農林水産省)
貝毒の発生状況(農林水産省)
令和2年食中毒発生状況 (厚生労働省)
農林水産省Webマガジン「aff(あふ)」2022年1月号
TBS NEWS DIG(2023年8月4日(金) 18:02)配信